
介護の仕事に興味がある方、あるいは現在すでに介護現場で働いている方へ。
『介護の専門性』という言葉を聞いたことはあるけど、はっきりしないまま業務を行っていませんか?例えば、介護福祉の教科書には『その人らしい暮らしを最後まで支える』『利用者の生活の質(QOL)を高める』と書かれています。
しかし、現場でこれを“具体的な行動”に落とし込むのは難しいものです。
本記事では、介護福祉士として老健勤務経験のある筆者が、こうした抽象的なイメージを、実例を交えながらわかりやすく言語化し、介護未経験の方にも『介護の専門性とは何か』を明確に伝わるよう解説します。
専門性1.『なぜその介護なのか』根拠の言語化

専門性1が、まさしく介護福祉士(介護職)の専門性の核。利用者様の生活で起こる行動のすべてに、なぜその介護をするのかという“根拠”を持つことが大切です。
例として、よく聞く”見守りに徹する“という介護。
『なぜ見守りに徹するのか?』を取り上げます。
A様に、複数の方のエプロンをたたんでもらう場面を想像してみてください。
- 時間がかかる。
- 職員がやったほうが早い。
- 仕上がりは完璧ではない。
それでも介護福祉士(介護職)が見守りに徹するのは、以下の根拠があるからです。
- 残存機能を活かし、自立した生活につなげるため。
- 『洗濯物をたたむ』という社会的な役割を担ってもらうため。
- 社会的な役割により「私にも役目がある」という自己肯定感が維持されるため。
- 結果として、身体および精神の重度化防止につながるため。
利用者様のできることを残し続け、生きていく中に活力を持っていただく。
実はこれこそ、『自立支援』の具体的な実践です。
また、介護の根拠は『選択の機会』を奪わないことにも表れます。
- 「今日はどの服を着ますか?」
- 「髪型はどうしますか?」
などと声をかけ、常に利用者様に選んでもらい『自分で決める』機会を守ります。自己選択を行ってもらうことは、生活の主体性を守るための支援です。
さらに、整容(髪型を整える・着替えをゆっくり行う)を大切にするのも根拠があります。外見を整えることは『社会的な溶け込み』に直結し、本人の自尊心や社会とのつながりを守るからです。時間がかかっても整容の時間は確保することが大切です。
まとめると、介護福祉士(介護職)はどの行為にも“なぜそれをするのか”という理由を持ち、説明できることが専門性の第一歩です。
専門性2.リハビリ、福祉用具企業などと連携する地域包括ケアシステムを見据えた力

自分の施設だけではなく、地域にある通所サービスや医療、ボランティア、福祉用具などの情報を知り、利用者様の生活全体をコーディネートする視点を持つことも不可欠です。
要介護状態になっても住み慣れた地域で、最期まで暮らすことができるようにという地域包括ケアシステムの体制が強く叫ばれています。地域包括ケアシステムを推し進めるということは、病気になったら医療、生活支援として介護サービス、ボランティア、リハビリ、福祉用具といった職種間が手を取り合い1人の対象者に注力していくということです。
介護福祉士(介護職)の専門性として、利用者様が在宅に戻った後までを視野に入れる力が、今後ますます求められます。

参照画像:厚生労働省地域包括ケアシステム(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/index.html)
具体例として
利用者様の生活の場(居室・自宅)において、転倒リスクを減らすための家具の配置や照明、床材の確認など日常動作を妨げない範囲で、最大限の安全を確保。
また、利用者様の残存機能に対し、福祉用具(手すり、滑り止めマット、ポータブルトイレなど)が適切に機能しているか評価し、リハビリ職や福祉用具専門相談員にフィードバックする専門性などです。「この手すりは移乗動作を助けているが、握り位置が低すぎて逆に立ち上がりを妨害している」といった気づきを具体的に伝え、改善を促す力。
こういった職種間をまたぎ、連携をして利用者様の課題解決を行うスキルが必要と言えるでしょう。
そして、地域に戻った後も生活リズムを整えて暮らせるよう、施設に入所しているときから生活リズムの把握および修正に配慮する力も要ります。
ITツールを駆使して、看護師の薬物投与時間、リハビリの実施時間、利用者の排泄パターン、睡眠サイクルといったすべての要素を保存することで「利用者様の生活時間」を再構築できます。
朝6時の排泄介助で起きていただいていた利用者様に対し、水分摂取量や夕食後の活動量を調整し、排泄リズムを7時以降にずらすことで、いつもより排泄がスムーズであったり『十分な睡眠時間』を保障することができたというような例です。
この力はDXを活用して、成果を出す考え方に直結します。
専門性3.医療職に伝える「報告のプロ」になる力

参照画像:photoAC(https://www.photo-ac.com/main/detail/33809460&title=%E8%BB%8A%E6%A4%85%E5%AD%90#goog_rewarded)
利用者様の体調状態や普段と違った様子を見抜く力も、介護福祉士(介護職)には必要な能力です。
利用者様の、通常時や急変時において『バイタルとアセスメント(観察・評価)』に基づき、5W1H(いつ、どこで、何を、なぜ、どうした)で医療職へ正確に報告することを求められます。特に急変時には必須のスキル。この力を身に着けると良いでしょう。具体例として
利用者A様 78歳 (既往症:糖尿病)
- バイタル: 体温38.5℃ 脈拍98回/分 呼吸数22回/分
- 全身状態:顔色が赤く、体が熱い。関節痛を訴える。悪寒(寒気)は治まっている。
- 食事・水分:朝食は1/3しか食べていない。水分は午前中に200ml程度。
- 排泄状況:排尿回数が少ない。尿の濁りや臭いはないか要確認。
観察事項で得られた情報です。これら情報を整理すると、介護福祉士(介護職)でも以下のような点に気付きます。
- 明らかな発熱と頻脈。感染症(風邪、尿路感染症など)の可能性を疑えそう。
- 全身的な炎症反応が起きている。水分補給と安静が必要。
- 食事・水分摂取量が明らかに減少しており、脱水のリスクが高まっている。
- 尿路感染症の可能性を探るため、排泄状況を伝える必要がある。
ここまで把握したうえで、看護職へ5W1Hにし、情報を伝達します。
- 【What(何を)】「A様、38.5℃の発熱を認めました。倦怠感が強く、食事摂取量が低下しています。」
- 【When(いつ)】「午前9時の検温では37.2℃でしたが、10時半に再検温したところ38.5℃でした。発熱は急激になります。」
- 【Who(誰の)】「78歳のA様、既往歴:糖尿病です。」
- 【Where(どこで)】「居室のベッドで臥床中です。」
- 【Why & How(理由と状況)】「朝から「体がだるい」と訴えがあり、朝食は1/3しか摂取されていません。咳や喉の痛みはありませんが、関節痛があるとのこと。尿量は普段より少ないです。」
ポイントとして
- 【What(何を)】では、結論と症状の全体像を最初に伝え、重要度を示しました。
- 【When(いつ)】で、変化の速さを示します。
- 【Who(誰の)】利用者特定とリスク(糖尿病)を伝えます。
- 【Where(どこで)】発生場所と現在の状況です。
- 【Why & How(理由と状況)】体調不良の経緯と感染源の手がかりを伝え、水分・食事摂取量を併記。
ただ、利用者様の状態を見たまま報告するのではなく、医療視点や既往症も混ぜて報告しましょう。医療視点や既往症を混ぜられることでプロの入口に到達するのです。そして
- 「私は今、A様を安静にし、水(糖尿病の為、経口補水液は避ける)を枕元に用意しました。今後の服薬使用や食事・水分対応の指示をお願いします。」
- 「A様は呼びかけへの反応が鈍いです。強い口渇(のどの渇き)も訴えられます。糖尿病の既往症が関係しているかもしれません。」
- 「皮膚をつまみ、離した際に皮膚の戻りが悪いです。脱水は大丈夫でしょうか。」
と見受けられる病状は、既往症やこういった病気に関係をしていないか?という紐づきまでを、報告できるとプロと言えます。
しかし、この時点になると高度です。医療に関連した書籍を学習、施設で開催される勉強会や研修会に参加しつつも、介護現場で実際に場面の対応にあたることで養われていくでしょう。
日々、アンテナを働かせて、医療の側面にも疑問を持ち、医療職へ疑問を聞いてみることも大切です。
まとめ

介護の専門性は共通して、利用者様の行動や支援に“根拠”を持つことです。そして、その根拠を実践するためには、利用者様の声に耳を傾ける傾聴力が欠かせません。
施設内だけで完結せず、医療職、リハビリ職、福祉用具などと連携し、利用者様が地域で安心して暮らし続けられるよう支えることも専門性の一つです。
体調の変化を観察し、医療職へ的確に報告できる力は、命を守る上で重要な役割を担います。
これら 専門性1・2・3 を身につけ実践することで、利用者様の『その人らしくあること』を確立します。これが『その人らしい暮らしを最期まで支える』ということです。
『その人らしい暮らしを最期まで支える』ように支援することで『人生の質(QOL)を高める』ことができるのです。
介護は作業ではなく、“理由をもった支援”。
『利用者様を幸せにする力』だけではなく『自分が長く働ける安心』も手に入れ、一緒に誇れる介護をつくっていきましょう。
あなたの優しさや気づきは、利用者様の人生を支える大切な力になります。


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