介護福祉士が老健・特養・有料老人ホームの違いを、家族が迷わず判断できるように解説します

介護福祉

「お父さんの面倒を見ることが親孝行だと思ってきたけど、精神的につらくなってきた。」「今まで、家で介護をしてきたけどもう限界だ。」

葛藤して、本当に良いのか涙しながらも、施設に入ってもらうことを決断したあなた。苦渋だったでしょう。あなたの判断は、間違いではありません。心優しい決断だと思います。

いざ、老人ホームを探そうと思うと

・老健がいいのか

・特養がいいのか

・有料老人ホームがいいのか

ネットを見ると専門用語ばかり。「結局ウチのお父さんはどこに行けばいいの?」「嫌な思いをしないか不安で。」と、もっと迷ってしまった声をよく聞きます。

そこでこの記事では、介護福祉士として介護老人保健施設(老健)で働いた筆者が、3つの施設をわかりやすく解説します。読み終わる頃には、施設を迷わず選べるようになっているはずです。

まずは3施設の違いを表で比較

家族がまず知りたいポイントを表にまとめました。

介護老人保健施設
(老健)
特別養護老人ホーム(特養)有料老人ホーム
目的・役割在宅生活の復帰を目標


リハビリや医療的ケアを集中的に提供
常時介護を必要とする方の生活の場

長期的に介護を受けながら暮らす



民間運営の施設


食事提供、介護サービス、家事援助、健康管理のいずれか最低1つ以上を提供している
入所期間原則3~6ヶ月終身利用を前提長期を想定
入居条件原則65歳以上で要介護1以上原則65歳以上で要介護3以上
介護付き型:原則65歳以上要介護1~要介護5

住宅型:60歳以上の介護を必要としない方〜要介護の方まで幅広い

健康型:アクティブシニア60歳または65歳以上自立
費用の目安月額8~20万円月額5~15万円初期費用(入居一時金)は0円〜数百万円以上
月額費用は10万円〜40万円以上
サービス内容


在宅復帰を目的としたリハビリ

医師の管理下での医療ケア、看護

食事、入浴などの日常生活支援
食事、入浴、排せつなどの身体介護

健康管理と療養上のケア

介護付き型:食事、洗濯、清掃等の生活支援、排せつや入浴等の身体介護、機能訓練など

住宅型:食事、洗濯、清掃などの生活支援サービスが付いている。入居者が要介護となった場合は介護系在宅サービス事業所と契約する必要があり

健康型:家事サポートや食事などのサービスが付いている。
温泉やスポーツジムなどがついていることもある。元気な状態の維持を目的としている。
待機期間の目安数週間~数ヶ月数ヶ月~数年単位即日〜半年以上と幅があり(地域性や介護度が影響する)
向いている人病院退院後、すぐに自宅へ戻ることに不安がある

在宅復帰に向けて集中的なリハビリを希望する方
生涯にわたって暮らせる『終の棲家』を探している方

自宅での生活が難しく、常時介護を必要とする方
自宅での生活がつらく、手厚い生活支援を求めている人

家事が難しい

一人暮らしで転倒や事故のリスクが高い

生活リズムが乱れており、家族が見守りきれない

など
デメリット終身利用はできない

いずれ退所しなくてはならない

特養よりも月額費用は高くなる傾向がある
入居条件が厳しい(原則要介護3以上)

待機者が多い

医療体制は老健ほど充実していない
お金がかかる
※初めに初期費用を支払い、その後は毎月の家賃にあたる月額料金を支払い続ける

在宅介護と比べると、多くの費用がかかる傾向にある

1.老健(介護老人保健施設)

老健は表にもありますが、在宅復帰を目標にした施設です。私は老健で勤務していたとき、「一度退院したけど、すぐ家で暮らすのはまだ難しい」という方を担当しました。

老健の特徴

在宅復帰を目的としている、病院を退院したばかりの受け皿になっているという点から次の特徴があります。

  • リハビリ専門職(PT・OT)が常勤
  • 日中はもちろん、夜間にも看護師が常駐
  • 常勤として医師を施設に配置(※法律で定められている)
  • 医療ケアに強いため急変対応に安心感がある(※家族の意向に従い、病院搬送や積極的救命も行える)
  • 介護職員にも医療知識が備わっている(※利用者様の普段の状態を知ったうえで、いつもと違う状態に気づきやすい 医療職がケアをするまでの間、一時的な緩和ケアなどの知識が身に付き実践できる)
  • 入退所が多いため、職員は多様な症状の方と接するスキルが高い
  • リハビリ計画を持ってリハビリを行うので、機能回復のゴールが見込まれる

家族が勘違いしがちなポイント

  • 老健は長く住む場所ではない(※あくまで在宅に帰っていただくためのリハビリと生活訓練の場)
  • 病院のような毎日の手厚いリハビリではない (※理由は、利用者様が多く、一人あたりのリハビリ時間が短いため)
  • 医療対応はあるが、なんでもできる病院ではない(※医師がいる=病院みたいに治してくれるという誤解を招きやすいところ)

家族としては、「退院直後で家が心配」「リハビリを続けてほしい」また「介護から離れて、一度、落ち着く時間が欲しい」という場合に老健の利用は最適です。

老健は、歩けるように、食べられるようになどの目的を持ってリハビリをし、元気になって戻ることを目的とすることが最大の特徴です。

2.特養(特別養護老人ホーム)

特養は、長期で安心して生活できる住まいと言えるでしょう。特養は、介護保険の中でも生活コストが低い方です。

特養の特徴

長期的に介護を受けながら生活する終の棲家という観点から、次のような特徴があります。

  • 月額費用が安い(※入居一時金がなく、多床室(複数の利用者様と共同)個室により多少の違いもあるが10万円から15万円前後の費用 この費用には、部屋の料金を始め、食費や介護サービス費も含まれる 1カ月の生活費用と考えると分かりやすい)
  • 生活の場として落ち着ける

注意点

  • 要介護3以上が条件(※例外として要介護1や2であっても認知症の症状が悪化している、知的障害や精神障害により日常生活に支障をきたしている、同居家族から虐待の疑いを受けており在宅生活が困難、単身世帯もしくは同居家族が病弱により在宅生活が困難であれば入居の可能性あり)
  • リハビリは少なめ
  • 医療行為は最低限(※夜間のたん吸引が必要、経管栄養を日々行うなどの医療依存度が高い方は入所が難しい)

家族が迷いやすいところ

最大のネックは 待機期間が長い という点。地域や立地にもよりますが、数年待機もあり得ます。

筆者が老健に勤めていた際にも、『特養の空き待ちで、ひとまず老健に入る方』がとても多かったです。また、入居要件に届かない要介護度1~2の場合も、後述する介護付き有料老人ホームが代替案として挙げられます。

3.有料老人ホーム

民間運営のため、設備はきれいで、レクリエーションも充実していることが多いです。人生を楽しむという面においては、実現しやすい環境でしょう。ただ、注意点もあります。

有料老人ホームの注意点

  • 費用は高め(※入居金が必要な場合もあり数万円から数十万円以上、月額も10万円~40万円以上かかる)
  • 医療行為は提携医に依存することが多い
  • 看取りに対応していない施設もある

家族が見るべきポイント

  • 看護師の常勤が何人いるか
  • 夜間の急変対応はどうしているか
  • レクリエーション・外出支援
  • 最後まで住めるか(看取り対応)

最後に:家族が迷うのは愛情があるから

どの施設を選ぶかは、家族にとってとても大きな決断です。施設は費用が高い=質が高いではありません。『介護力』『医療力』『職員の雰囲気』は、自分の目で確かめる必要があります。

また介護の現場で働いていたとき、『家族が一番悩むのは、どこが正解かわからないという不安』だと痛感していました。

しかし、正解はひとつではありません。施設見学をして、本当に任せられる施設かを判断したうえで

  • 家に戻りたいのか
  • 安心して暮らしたいのか
  • 医療がどれくらい必要か
  • 家族がどれくらい支えられるか

を軸に方向を決めるのがおすすめです。

この記事が、あなたとご家族の最初の一歩を少しでも軽くする手助けになれば幸いです。

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