介護職に就職・転職を考えている、もしくは迷っている方へ。
ここでは筆者が勤務していた老健(正式名称・老人保健施設)の実際をとりあげます。
仕事のイメージはなんとなくできているけど老健ってほんとうのところ何をしているのか、やりがいはあるのか、自分に務まるのか不安など、疑問・悩みは多いのではないでしょうか。
この記事では筆者の経験から1日の業務内容、利用者さんとの心で交流、失敗をしてしまいモチベーションが低下したリアルをお届けします。
職場選択の助けになると幸いです。
老健の業務内容とリアルな1日
老健は医療と生活支援を組み合わせ、在宅復帰を目指す施設です。
勤務は早番・遅番・夜勤といったシフト制に大きく分けられ、それぞれに求められる役割とスキルがあります。
シフト別の業務内容と求められるスキル
1-1. 【早番】利用者さんの『生活』を支え、正確に伝える役割
私が勤めていた所では、早番は利用者さんの起床から夕方の時間帯まで携わりました。食事、排泄、更衣等といったいわゆる生活援助の全般を担当するのです。
介護と聞いて多くの人がイメージする内容ではないでしょうか。
最も重要な役割は、『申し送り(情報提供)』です。退勤時、利用者さんの体調や過ごされた様子、特別な出来事を遅番へ共有します。
・求められるスキル:正確な観察力と、状況を具体的に伝える言語化能力。
1-2. 【遅番】『情報整理力』と『生活援助技術』を駆使する調整役
遅番はお昼前または午後より出勤し、入浴介助をメインで担当します。入浴介助後は早番の業務フォローや夕食、就寝準備といった生活援助技術も欠かせません。
遅番は情報伝達の『受け手』および『伝え手』と役割を兼務し、高い情報処理能力が求められます。
・早番からの申し送り: 不明点を正確にヒアリングし、情報を整理するスキル。
・夜勤への申し送り: 日中の状況を把握していない夜勤者へ、早番以上に正確な観察力と言語化能力で伝達する。
1-3. 【夜勤】『急変対応』と『看取り』の判断力が試される時
夜勤の主な業務は、寝ておられる利用者さんの巡視や安否確認です。
利用者さん20名ほどを1人で担当することもあり、日中とは異なるリアルな緊張感を伴います。
・夜間の急変対応: 高齢者は夜間に容体が急変しやすいため、急変時の判断と、医療職へ詳細な状態を報告する能力が不可欠です。
※医療行為はおこないませんが医療知識を求められる場面もあります。
・看取り(エンゼルケア)夜間は最期を迎えられる利用者さんも多く、エンゼルケアを実施することもあります。
精神的に大きな負荷もかかりますが、人生に寄り添う介護福祉士の専門性が試される役割です。
介護福祉士の専門性とは?
最期も含め、その人がどう自分らしく暮らすことができるかを模索し実現する役割。これこそ、介護福祉士の最も重要な専門性なのです。

認知症ケアで感じたやりがいと難しさ
介護現場の中で難しいのは、食事や入浴等の生活援助ではありません。認知症の方とのかかわりです。
ある女性利用者さんは普段、おだやかでした。しかし必要以上に介入してしまうと暴力や暴言が出てしまう方だったのです。
ある日、「みんな笑っているけど私のこと殺すんでしょ」と訴えられました。私は彼女の気持ちや状態を理解するよう努めました。
「日に日に分からなくなる中、自分の見知らぬ人間が必要以上に介入してくる。不安なのだな。」というようにです。そのため、見守りの介護に徹しました。
すると少しずつ信頼関係が生まれ、彼女からあいさつや会話をしていただけるようになりました。
しかし、ある日「お前が1番怖いのや!」と叫ばれました。険しい表情で手を挙げられ、力強い暴力だったことは今も忘れられません。信頼関係を築いたと思った矢先のできごとでしたので、あのときの悲しみとショックは覚え続けています。
それでもこの経験を通して、距離の取り方も介護技術の一つだと学びました。
利用者さんが、ふと見せる笑顔と言葉に温かくなった経験もあります。
他に意思疎通が困難な方がいらっしゃいました。日々、目はつむっておられお声がけをしても反応はないです。
しかし入浴後、「ありがとねぇ」と介護者の私を見て言ってくださった時がありました。目を開けられ視線を注がれたのです。
まなざしと、しっかりとつむがれた「ありがとねぇ」に意思を感じました。感謝の言葉をもらったその瞬間、報われるというのはこういうことかと実感しました。
それと同時に人はどのような状況でも感情は残る。その人にとっての最善はなにかということを考えるきっかけにつながりました。

『命の儚さ』と向き合う:後悔を減らすためのヒント
元気そうに見える人でも、わずか数カ月で体調が急変することもあります。
「自分のことはできるから!勝手なことをするなや!」とよく声を荒げている男性利用者さんがいました。頑固ながらも愛嬌がある方でした。
しかし持病のぜんそく悪化で、ベット上にて1日の大半を過ごす事になってしまったのです。
常に酸素吸入を必要とする状態になり吸入器も手放せなくなりました。言葉も発することができず最期はスタッフステーションの方向をじっと見つめられながらお亡くなりになりました。
目に涙を浮かべられていたのでしょう、涙を流された痕跡をのちにお見受けしたのです。
ふとした時に私は男性利用者さんの表情を思い出すことがあります。
この件で医療福祉のできる限界を感じ取るとともに、人の命は、もろくはかないものだということをまざまざと実感しました。当たり前に見える今日でも生きているというのは奇跡です。
利用者さんやご家族に安心できる今日を作る、安心を提供する関わり方が介護福祉士としての役目だと気づかされました。

介護に向いている人・続けられる人の特徴
介護職のやりがいは大きい一方、体力的・精神的な負担もあります。
長く続けるためには、以下のような人が向いていると感じます。
・人の変化に気づくのが得意な人
・感情の切り替えができる人
・感謝や笑顔を力に変えられる人
・チームで協力しながら働ける人
逆に、『1人で完璧を目指すタイプ』や『他人の感情を抱え込みすぎるタイプ』は疲弊してしまう傾向にあります。
筆者は、『他人の感情を抱え込みすぎるタイプ』でした。人と連携することが苦手です。
2人介助を推奨している利用者の方に対して、1人で移乗介助を行ったことがあります。現場が忙しくピリピリしていたので、他職員へ声を掛けるのを怖く思ったからです。
ベッドから車いすへの移乗でしたが、1人で移乗を行ったことにより姿勢が崩れてしまう、不快な感覚を利用者の方へ提供してしまいました。
その後、先輩から指導を受けたのです。「介護のプロとしてあり得ない、利用者の方の変わらない日常が崩れてしまう。」と。
1人で介助をすることで、事故につながるリスクも高まるのでした。
この経験より、他の職員の目線と風当たりは強くなったのも事実です。
精神的にきつかったのですが、もう一度原点に立ち返って考え、『安全安心を作るプロ』と思い返しました。
経験以降は、分からないことはもちろん、協力しないといけないときは積極的に他の職員へ声をかけました。
すると、徐々に話しやすくなり仕事も円滑に進んだのです。

最後に:人生に寄り添うプロとしての価値
介護と聞くとお世話をするだけではと思われるかもしれません。
実際は根拠にもとづいた無理のない介助であったり医療福祉の全体的な知識、心理的アプローチやチームとの連携など幅広いスキルを問われる専門職です。
そして接するのは人です。利用者さんはどんなに症状が悪くなろうとも感情は残ります。
認知症になり今のことを覚えられなくなった、昔のことを忘れていくとしても生きてこられた歴史は変わりません。大切にされていたことや愛しておられたことも確かに存在しています。
医療には限界があり寿命も避けることができないですが、だからこそ毎日が大切なのです。
利用者さんの後悔が残らないように、ご家族みなさんの笑顔を増やせるようにと配慮する姿勢が介護福祉士には非常に求められるでしょう。
仕事中に分からない、これで良いのか悩むときこそ、周囲へコミュニケーションを取って前に進むとまた変わっていきます。
今回の記事で、介護福祉関係で働きたい、老健に勤めてみようかなと思っていただけたら嬉しいです。


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