今まで、家族を守ってくれた親の存在。そんな親が認知症になり、今度は守る番だと奮闘する日々。しかし、毎日のように便をいじり、なすりつける姿に耐え難いショックと、終わりのない絶望感にさいなまれていませんか?
仕事で疲れて帰宅した後、立ち込める臭いと部屋中を汚されて片づけをする労力。湧きあがる親への『憎しみ』。そのような気持ちになるのは、人として当然の反応です。あなたはまったく悪くありません。しかし、我を忘れそうになったときに思い出してほしいことが1つあります。それは、弄便は『嫌がらせ』ではなく、必ずSOSのメッセージを含んでいるということを。
今回は、介護福祉士として老健(介護老人保健施設)勤務経験のある筆者が、弄便を起こしてしまう心理と対策を解説します。
そもそも弄便とは
弄便とは便を素手で触り、いじったり、手に付いた便を衣類や床、壁になすりつけてしまう症状。時には便を口へ運び、感染症などのリスクも引き起こすため注意が必要です。爪が長いと、爪の間に便が詰まってしまうといった問題もあり、手洗いをしても汚物が残るという危険性もあります。
介護者にとって精神的・肉体的な負担を大きく被る行為ですが、本人の『悪意』や『嫌がらせ』ではありません。認知症の症状として現れる行動・心理症状(BPSD)の一つです。
弄便を起こす原因(メッセージ) 身体面

1.おむつの中の不快感を排除しようとする
便がおむつの中に溜まっていたり、残便感覚が残ることで、不快や異物感を感じます。本人は認知機能の低下により、排便した認識はないものの、どうにかして不快感を取り除きたいという気持ちから、おむつの中に手を入れてしまいます。
筆者は、介護福祉士養成校出身で、授業の一環としておむつを装着し排泄するという経験をしました。確かに、尿をすればひんやりしますし、便を出せばねっとりとした違和感が続きます。日常的にこういった状態が続くようであれば、不快感を排除しようとするのは当然のことだと思います。
2.自分で片づけをしたい
排便後に、便が不潔なものという感覚が残っており、早く処理しなくてはという思いより弄便につながることもあるでしょう。
「家族に見せるのは気が引ける」「これくらい、なんとかしなくては」という思いが、隠れているとも言えます。しかし、どう処理をしていいのか分からず、おむつを引っ張る、もしくは破く等で結果的に弄便、あらゆる場所に便を塗ってしまうのです。
3.皮膚トラブル
おむつかぶれや湿疹、かゆみなどを原因として、排泄物の有無にかかわらず陰部周辺を触る行為が弄便につながることがあります。
弄便を起こす原因(メッセージ) 精神面

1.不安と混乱
認知症により、今いる場所がどこなのか(見当識障害)、あるいは排泄物が何であるかがわからなくなり、混乱からいじってしまうことがあります。特に環境の変化や、介護者がそばにいないことによる孤独感と不安感が増すと、弄便行為が増えることがあります。
2.やることがない・役割不足
日中や特定の時間帯(特に活動量が落ちる夕方以降や夜間)にやることがなく、退屈している場合に起こるケースがあるでしょう。
手元にあるもの(排泄物)を遊びや、探索の対象として触ってしまうことがあります。
3.コミュニケーション
コミュニケーション手段の一つとして、弄便を無意識に行っている場合があります。弄便を行うと、介護者がすぐに駆けつけて声をかけるため、「これでかまってもらえる」と思うためです。
介護者の負担を軽減 弄便を減らすための対策
弄便をされた本人の手を洗ったり、身体をきれいにすることは対応としては大切です。しかし、弄便をする本当の原因は心理面にあります。今まで紹介したように、迷惑をかけたくない、不安や孤独といった責任感から弄便は引き起こされると言えます。誰も悪くはないのです。
弄便をゼロにすることは、現実的に難しいでしょう。ただし回数を減らし、介護者の精神的な疲弊を大きく軽減させることは可能です。
1.弄便が起きる時間の把握
「弄便は、毎日夕食後に起きている。」「夜中の2時頃に、部屋の中でゴソゴソしてから起こっている。」といった、弄便が起きる時間の把握を大切にしましょう。弄便が起きるということは、その前に排便していることが読み解けます。
弄便の時間帯を把握することは、排便タイミングを特定する重要な手がかりになります。
2.トイレへの誘導
弄便への本質の対策として有効なのは、トイレ誘導です。トイレへ行ける筋力がある方なら、1.でお伝えした排便タイミングにて、積極的にトイレ誘導しましょう。
可能であれば、滑り止めマットや照明の調光を整えることで、『トイレに行きやすい』『排泄が楽にできる』状態を専門的に作り出せます。
夜間で、過ごしている部屋からトイレまでの距離が長い場合は、ポータブルトイレを部屋に設置するのも手でしょう。ポータブルトイレとは、持ち運び可能な簡易トイレのことです。
『トイレでの排泄が成功する』というポジティブな体験を増やすことが大切です。本人は認知症などで成功したことを忘れていたとしても、心地よかった感情は残ります。また、介護者も、本人の表情の緩和や排泄後の後片付けが少なくなり、ストレスは大幅に減少するでしょう。排泄の成功体験の積み重ねは、被介護者、介護者ともに良い影響を生みます。
もしトイレへ行くのは無理で、おむつをしている方であれば、排便された際、すぐにおむつ交換をすることもポイントです。排便を長時間、おむつに留めないことで弄便の機会は減少します。
3.排泄に関する物品を視界からなくす
家や部屋を、『生活し、くつろぐ場所』として役割づけるため、排泄に関連する物品(ポータブルトイレや汚染された衣類など)は、必要時以外は視界に入らないようにしましょう。
そして家の中は、気力も湧かず大変かもしれませんが、整理整頓しておくことをおすすめします。できる範囲内で構いません。床に物が散乱していると、『トイレ』や『ゴミ箱』といった誤認識をしやすくなる可能性が高まります。
4.できるだけ清潔に保つ
被介護者、介護者ともに、排泄後はすぐに手と陰部を清潔に保ちましょう。排泄物の『残り香』や『手のベタつき』から、弄便を連想させる引き金を断ち切ることを目的とします。
家や部屋の中の清掃・消毒を心がけることも効果があります。防水シートや使い捨てのタオルなどで、ベッドや壁、床を保護することをしておくと排泄物が直接付かないため、安心です。
5.陰部や肛門周りにワセリンなどを塗布
おむつかぶれや湿疹、かゆみの影響により陰部、肛門を触ってしまう場合があります。ワセリンや肌に合ったクリームを使うことで、皮膚を守り清潔感が持続します。油分で潤わせることで、かゆみやかぶれも気にならなくなるでしょう。
6.本人との密なコミュニケーション
弄便は施設での夕食後、就寝をするタイミングで起きていたという事例がありました。1人になってしまう、普段関わっている介護職、他の利用者様と会えなくなるタイミングということから『信頼していた人がいなくなることへの不安や寂しさ』が不穏行動を引き起こしている原因だと特定できます。
就寝前に数分間、手を握ったり、会話をするといった『密なコミュニケーション』を行うことで、この不穏を減らすできました。ですので、ご家族の方も本人と『密なコミュニケーション』を意図的にとる時間を作ってみるのはどうでしょうか。弄便回数を減らす工夫ができると言えそうです。
7.弄便が起きる時間帯に他のことに集中してもらう
弄便の直前、『夕方に必ず窓の外を不安そうに見ていた』という施設での記録がありました。『外が暗くなることによる不安』が弄便原因だろうと特定できます。この弄便原因を避けるためには、夕方の時間に好きな音楽を流したり、照明を早めに点灯するという環境調整を行うことで、弄便から意識をずらしました。便を弄らないことも日常の中で、出てくるようになったのです。
ご自宅でも、弄便が起きる時間帯に会話や音楽、花やお絵描きなどで気を他に向けてみませんか?洗濯物たたみや皿洗いなどの作業も効果的です。弄便行動を他の行動に置き換えることで、弄便回数を減らす一助になりそうです。
本当につらくなったら介護福祉の専門サービスを使いましょう

ここまで、弄便の原因と対策について紹介しました。しかし、いくら対策をしても肉体的にも精神的にもショックが大きく、立ち直れないこともあるかと思います。
そんな時は無理して抱え込まず、ケアマネージャーや地域包括支援センターなどを通して、介護福祉専門サービスを積極的に活用しましょう。中には、親の面倒は子どもが見なくては親不孝だと思う方もいらっしゃるかもしれません。決して親不孝ではありません。
訪問介護やデイサービスを活用して、介護者の負担を減らす、ショートステイを使用して共倒れを防ぐといったこともできるのです。負担が減れば、憎しみが生まれる可能性も下がるはずです。
公的サービスをうまく活かして、親子関係を素敵なまま持続することができたらよいですね。
まとめ
排便や弄便が起きた時間を記録に付け、把握することが対策としては有効に働きます。
弄便を引き起こすのは、心理面や身体面で必ず原因があると言えるでしょう。原因を特定して、紐解いていくことで解決につながる可能性があります。
なにより、ご家族が、本人の弄便で受けたショックを抱え込まないことが第一です。信頼できる人に相談、どうしてもといった場合は、積極的に介護福祉サービスの活用をしましょう。

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